京大東南研(CSEAS)の月刊ニューズレター「かもがわ便り」7月号の挿入画を担当しました!

2024年7月のニューズレター記事はジャン=パスカル・バッシーノ氏(経済史)による「戦争と米:クリストファー・ゴーシャのインドシナ戦争史からのいくつかの洞察」。紹介されたのは、クリストファー・ゴーシャ氏による『ディエンビエンフーへの道』(The Road to Dien Bien Phu: A History of the First War for Vietnam, Princeton University Press、邦訳は未刊行)

本著は第二次世界大戦終結後すぐの1946年から始まったインドシナ戦争について、中でもベトナムの勝利を決定づけたディエンビエンフーの戦いについて、何が勝因となったのかを懇切丁寧に分析しています。

非対称戦争として知られるこの戦争。およそ勝機のなかったベトナムがなぜ技術・兵力的にも優れた大国フランスに勝つことができたのか、ベトナム国民の独立をかける「愛国心」だけがその勝因ではなかったと、当時の詳細な事例分析から著者は言い切ります。

フランスに対し圧倒的に兵力が足りないベトナムでは、農民も兵士として駆り出され戦場で戦ったとのことです。現在は東南アジアの一観光地としてその魅力が全世界に知られているベトナムですが、植民地支配からの独立を勝ち取る戦場として踏み荒らされた歴史を知ると、現在の田圃の広がる穏やかで豊かな風景がより深みを増して見えるように思われました。

戦争と米:クリストファー・ゴーシャのインドシナ戦争史からのいくつかの洞察 – CSEAS Newsletter

ジャン=パスカル・バッシーノ(経済学) カナダのケベック大学モントリオール校歴史学部に務めるクリストファー・ゴーシャ教授は、20世紀ベトナム史研究を牽引する歴史家…

◆挿入画解説◆

1946年、ホーチミンがインドシナ戦争について軍事レポーターから問われた際、ベトナムを「虎」、フランスを「象」と喩えたことに着想を得ています。ホーチミンは、虎と象を単に引き合わせると虎は象に踏み潰されてしまうが、闘争心のある虎は象を徐々に弱らせて死に至らしめる、それがインドシナ戦争だと答えています。

書籍の著者は、実際はこのホーチミンの喩えを正確ではないとして、ベトナムが「虎とは全く異なる、しかし必ずしも象ではない何か」になり得たことで、ディエンビエンフーの勝利があったと記述しています。イラストでは、ベトナム=虎が著者の言う「何か」に変容する前の、非対称戦争が始まった時の状態を表現し、エッセイ著者が記述するインドシナ戦争で重要な役割を担ったコメ=田圃を背景に描きました。

虎は象の頭上にある独立の旗を取ろうとしており、大きな象に対して劣勢であるように見受けられますが、暗雲が立ち込めてきており、盤上をひっくり返すような波乱(ディエンビエンフーでの勝利)があることを示唆しています。