京大東南研(CSEAS)の月刊ニューズレター「かもがわ便り」4月号の挿入画を担当しました!
2024年4月のニューズレター記事は町北朋洋准教授(労働経済学)による「時間をかけて、ジャンルを越えて:ある批評家の日記から」。紹介されたのは、文芸評論家加藤典洋氏による『小さな天体─全サバティカル日記』(新潮社、2011年)。
著者は1年間の在外研究の折、2010年3月末からデンマークと米国西海岸で半年ずつ過ごし、2011年3月に帰国しました。本著は、その期間に著者が触れた風景、芸術、音楽、古典文学や周囲の人間関係の機微を、1日ごとに丁寧に叙述します。著名な批評家としての日常に頻出する仕事内容の描写は、私の知る働き方とは一味も二味も異なっていてとても新鮮に映りました。
ただの日記と侮るなかれ、何気ない日常に違和感なく散りばめられる著者の知識量・教養の深さに、私は自分の無知ぶりを白日の元に晒された気がして、途中で読むのが苦しくなるほどでした。自らの視点で芸術作品を深く洞察する視点は、一朝一夕で身に付けられるものではないでしょう。
ただやはり、本著の面白みはそういった知識・教養だけでなく、著者自身の思考の深さにあると感じます。「言葉」とは何か、「絵画」とは何か、「自分」は何ができるのか。言葉の通じない外国での孤独な時間を経て、また東日本大震災の惨禍を見て、著者の思考の旅は歩みを止めません。
本著を読んだ後に再度エッセイを読み返すと、エッセイ著者が記述する批評家の意義についての一文が、より一層心に響きます。
◆挿入画解説◆
地球のある地点で起こった出来事がそこから遠く離れた場所にも影響を与えることから、書籍著者は地球を「小さな天体」と表していましたが、書籍著者・エッセイ著者の文章から、個人も日々周囲の多様な事象から影響を受け、それを咀嚼して自分のものにし、世界に発することで他に影響を与えうる「小さな天体(思索・思想の結晶、哲学、批評の視点)」をそれぞれ作り上げるのだと解釈し、イラストの構想をしました。
イラストでは、画面中央の男性(右側)が周囲に浮遊する様々なモノを調理して自分に取り入れることで「小さな天体」を築いている様子と、その周囲には無数の天体が存在すること、そして「小さな天体」はそれら周囲の天体から窓を通して光(影響)を受けている様子を表現しました。また、「小さな天体を照らす天体」も「小さな天体」から影響を受けていることを示唆するために、「小さな天体を照らす天体」を瞳孔として、こちらを見ている目のように表現しました。
周囲に浮遊するモノは書籍中に記述される出来事を象徴するモノです。