京大東南研(CSEAS)の月刊ニューズレター「かもがわ便り」8月号の挿入画を担当しました!
2024年8月のニューズレター記事は山田千佳氏(公衆衛生、地域研究)による「建築と公衆衛生のあいだ」。紹介されたのは、ジア・ウィ・チャンの『熱帯建築の系譜:植民地ネットワーク、自然、科学技術』(2016年、原題A Genealogy of Tropical Architecture: Colonial Networks, Nature and Technoscience、邦訳は未刊行)。
本著は植民地時代以降、「熱帯建築」という呼称が熱帯の特異的な気候に支配された建築様式・建造物を指すものとされてきた流れに懐疑的で、植民地時代から現代にいたるまでの「熱帯建築」の姿を、「系譜」として時系列に検証しています。そして、人が地球環境に強い影響を及ぼす人新世においては、「熱帯建築」を熱帯という気候の特異性からのみ支配をうけるものと規定することはもはやできないとして、今後「熱帯建築」は文化的・社会的・経済的・政治的な変化と格闘していかなくてはいけないと記述しています。
外気温は高くても、湿気で蒸し蒸ししていても、ビルの中に入ると冷房が寒いほど効いている。そんなタイやインドネシアの街並みや、外壁のない石張りの廊下と廊下沿いに開け放たれた扉がならぶ開放的な大学施設も、本著を読むことで懐かしく思い出されました。
◆挿入画解説◆
エッセイ著者様が記述されているように、「熱帯建築」の求められる姿が時代により大きく変わっていく様を一目でわかる形にしたいと考え、「熱帯建築の系譜」を粘土細工の家の工作風景に見立てて表現しました。
「ポスト植民地時代」(とそれ以前)には「気候」の粘土でのみ形作られていた「熱帯建築」は、「人新世」という新しい紙の上に移され制作されることで、「文化的」「社会的」「経済的」「政治的」な「変化」によっても形作られていくものになったのだということを、作りかけの粘土の家・左手に新しく握られた粘土・右手のヘラで表現しています。