京大東南研(CSEAS)の月刊ニューズレター「かもがわ便り」10月号の挿入画を担当しました!

2025年10月のニューズレター記事は石井 周氏(海事考古学、戦跡考古学)による「水中考古学の可能性」。紹介されたのは、『水中考古学:地球最後のフロンティア』(佐々木ランディ、エクスナレッジ、2022年)

「水中考古学(Maritime Archaeology)」という言葉を、聞いたことがあるという方はどの程度いらっしゃるでしょうか。

水中考古学とは、本書の著者いわく「人間がどのようにうみ(海・湖・河川)を開拓してきたのかを考える学問(海事・海洋考古学)(p.18)」であるとのこと。沈没船や水没遺跡を調査し、船やその材料、また積まれた貨物やその使用目的を明らかにすることで過去の文明像をより鮮明に描き出すことができるため、世界中の海で水中遺跡の研究や調査が活発に行われています。

しかしながら、周囲を海に囲まれているにもかかわらず、日本では実際に調査された海域は非常に限定的、かつ水中考古学の認知度も低いのが現状のため、より多くの方にその存在と魅力を知ってもらおうと書かれたのが本書です。

本書を読んでいて特に面白かったのが、水中遺跡の分析から歴史的事実が明らかになる一つの例として、鎌倉時代のかの有名な元寇襲来の当時の状況を仔細に記述している点と、水中考古学者になるための一つの道筋や、実際に水中遺跡の調査で使用されている道具の紹介など、著者自身の体験やアドバイスがふんだんに盛り込まれている点です。

世界をあっと驚かし、現在の歴史の常識を覆す可能性まで秘めた水中考古学。その入り口へと魅惑的にいざなう本エッセイを、ぜひご一読ください。

水中考古学の可能性 – CSEAS Newsletter

石井 周(海事考古学、戦跡考古学) 私が初めて「水中考古学」という言葉に出会ったのは、砂漠の真ん中であった。オレゴン州の高原砂漠で行われていた発掘実習で、私は毎…

◆挿入画解説◆

エッセイ冒頭のオレゴン州の高原砂漠の追想から、水中考古学へとエッセイ著者が思いを馳せる様子を描きました。

書籍では、遺跡や沈没船が沈没前と同じような状態で見つかることは稀という主旨の記述がありますが、本イラストでは、水中考古学への夢やロマンを表現するために、あえて海底の遺跡と沈没船はそれが何であるかわかるような形で描きました。

「深海に到達したことのある人物の数よりも宇宙飛行士の数の方が圧倒的に多い」という書籍冒頭の著者の言葉にも表されるように、未知の世界という意味でよく比較される深海と宇宙ですが、今後は宇宙航空学と同じくらい水中考古学が一般に浸透し、その重要性が認識されるよう祈りを込めて、宇宙と深海を重ね合わせたような表現をしました。