京大東南研(CSEAS)の月刊ニューズレター「かもがわ便り」1月号の挿入画を担当しました!

2024年1月のニューズレター記事は設樂成実助教(学術出版)による「出版から学術の未来を考える」。紹介されたのは、有田正規氏による『学術出版の来た道』(岩波科学ライブラリー307、岩波書店、2021年)

研究者の論文を取りまとめて発行し、大学図書館やオンライン上でその論文の閲覧を可能にしている学術出版社。昨今、時代の変化に伴う出版業会の斜陽化が議論されていますが、同じ業会にありながら「学術出版」は継続的に利益を上げ続けています。なぜそのようなことが可能なのか…。「学術出版」という業態が研究活動と密接に関係し、研究者や大学図書館と特異な構造を築き上げてきた様子を、古くは17世紀のヨーロッパまで遡って紐解いたのが本著です。

一般書籍のような需要と供給の関係が成り立たない奇妙な商売が今日まで成り立っている要因や、何十年も議論されつづけている課題、そして近年になって問題視されはじめた課題などが、そもそも論文ってどうやって出来上がるの?というスタート地点からとても丁寧に説明されており、「学術出版」の知識がなくとも面白く読むことができました。

論文本数を稼がないと出世が困難な研究の世界の実態、引用されない論文を量産することの是非、公費から捻出される研究費が学術出版社の言い値で支払われる違和感、基礎研究や抄録作業がその国の科学力に大きな影響を及ぼす事実。真に人類の発展に役立つ科学を推進するには、日本の科学力を上げるにはどのような仕組みを作れば良いのか、著者の思いがふつふつと感じられ、他人事として終わらせることのできない現実にはっとする思いの連続でした。

研究・出版・教育に携わる方に限らず多くの方にぜひ読んでもらいたいです。

出版から学術の未来を考える – CSEAS Newsletter

設樂 成実(学術出版)<br> むかしむかしまだ英文学科の学部生であったその夏、私は途方に暮れていた。……

◆挿入画解説◆

研究者が水をやる(研究活動に勤しむ)ことで実った果実(論文)は、学術出版社(中央の背広を着た人々)の採択審査・校閲・校正という流れ(左の小さなコンベア)を経て大学図書館(中央下の果実店)に収蔵されるケースと、オープンアクセス形式で公開されるケース(審査や校閲が入らない右側の大きなコンベア)がある現状を図示しました(左から右のコンベアへ果実を移す=論文のカスケード査読を示唆)。

研究者たちが水をやるために使用している階段(研究資金)は国が負担しているという現状を一般市民が階段の材料を運ぶ様子で表現し、その資金を学術出版社らがランキング化など巧妙な手法でインセンティブを生み出し研究者たちから受け取ることで大きな利益をあげていることを表現しています(IFを公表する研究者・立派なコンベア設備・その隣に置かれた札束の山)。地面に落ちて誰にも食べられない果実は、論文数の増加を煽る時流にのって生み出された引用されない論文を示唆しています。

画面右上に植えられた木から果実を取る集団を、学術出版社ではない一般の出版社として表現しました。利益率の低下にあえぐ出版社を、トロッコのような粗末な設備で果実を流通させることしかできない様で表現し、「学術出版」がいかに一般の出版業と異なるスキームで成り立つ商売であるかを示すため、両者が果実を採る大地を明確に分けました。